「美奈。」
それは私を呼ぶ悪魔の声。
私はゆっくりと振り返る。
そこには予想通り私と悪魔の契約をした女の人が立っていた。
「美奈。これで『あなた』は解放してあげます。」
女の人が優しそうに微笑むと今まで降っていた冷たい雫が止まった。
そして冷たい雫によって溶かされた私の身体の部分が修復されていく。
この冷たい雫は『仮想(バーチャル)』なんだよ、お兄ちゃん。
「あなたの条件は『相手がキーワード』を発すること。
そのキーワードは「大丈夫」。あなたはその言葉を発させるのに成功した。」
私は何も言わない。せめてもの、ささやかな反抗。
「一つ、教えて下さい。どうしてあなたは啓介の条件だった、
『自分の家に入る』を達成させようとしたのです?」
私は答えない。そんなもの、答えるまでもない質問だ。
「………そうですか。それが、あなたの答えですか。」
女の人はそう呟くと私を『帰した』。
この『仮想ゲーム』から、私を『帰して』くれた。
・・・お兄ちゃん。
私は、お兄ちゃんに帰って欲しかったんだよ。
でも、お兄ちゃんは・・・。
・・・・・。
それは私とお兄ちゃんがお買い物に行っていたとき。
声をかけてきた女の人がいた。
その女の人は『仮想ゲーム』の存在を語った。
現実のような立体感のあるゲーム。
私はその話に飛びついた。
私とお兄ちゃんは案内されるがままビルの一室へと向かった。
そこで私とお兄ちゃんは『仮想』世界の一員となった。
脱出する方法は条件を満たすこと。
でもお兄ちゃんは一部の記憶を失い、
私は制限時間を設けられた。その時間は30分。
それを過ぎるとあの冷たい雫が降る、と言う仕組みだった。
私のせいだ。
私はお兄ちゃんに戻って欲しかった。
でも、もう遅い。
お兄ちゃんは『仮想』世界で一生生き続けるんだ・・・。
空のない、あの寂しい場所で・・・。
「・・・よ。目、覚めたか?」
私が目を開くとそこにはお兄ちゃんが立っていた。
ここは・・・ここは・・・。
「商店街・・・・・?」
あの、女の人に話しかけられた場所だ。
「どうだった?2時間の、夢・・・もとい「催眠の世界」は?」
催眠の世界・・・・・?
目をこすりながら立つとお兄ちゃんの隣にはあの女の人がいた。
私に向かってにっこり微笑む。
・・・・・え?
「怖かったろ?お前の、誕生日プレゼント。」
・・・そうだ。
思い出したぞ・・・!
「怖い催眠、試してみませんか?」という怪しげなキャッチフレーズのお店があったんだ。
それでおもしろがったお兄ちゃんが私の誕生日プレゼントとかほざいて私に催眠をかけてもらったんだ・・・!
全部・・・全部催眠だったのか・・・!
「いやぁ。お前の寝言は聞いてて楽しかったぞ。ゲームオーバーだよ、お兄ちゃん。は特にな♪
あ、寝言じゃないのか。催眠言っていうのか・・・な・・・。」
「お兄ちゃん・・・?」
「あ・・ハハ・・・その・・だな・・。」
「許さないぃぃぃ!!!!」
「い、いや、待て!!話せばわかる!!話せば・・・!!」
ゴメンナサイーーー!!